2015年12月31日木曜日

新年にむけて。

今年は私の周りの人が人生の大きな山を越える時期で、それにがっつり関わる一年でした。
家族をサポートする立場である以上、その苦楽を共にすることは当然のこと。そして、もし私に それらの人を支える力があるならば それは喜ばしいことだと思います。いつか、人に心配される時代が来るのですから、今はたとえそれが大変であっても喜ばなくては・・と思うのです。

私が支える立場になって気になるようになったのはフィギュアスケートのコーチの姿。緊張漲るリンクサイドでまさに今、銀板の中央に滑り出す選手を見送るコーチたちは、きっと一番有効な言葉や態度で選手に接しているはず。
一体、どんな言葉をかけているのだろう。笑顔?リラックスムード?喝?
その人と関わるなかで得た全ての情報を総動員して 最善の選択をしているはず。これは本当に難しいし、一緒に緊張して沈没しないだけの人間の器の大きさが必要なのでしょうね。

人間の器といえは、この秋に東京庭園美術館で開催されたドイツの現代ジュエリーの巨匠、オットー・クンツリの展覧会ではまさに器の大きさを感じました。
既成概念にとらわれない、人が装うということに果敢に挑戦し続けてきた姿に爽快さを感じ「ぐちゃぐちゃ考えすぎずに作ればいいじゃん・・!」と励まされました。
考えることは大切、試行錯誤は必要、でもそれは純粋に作品に対して、または自分の美の女神に対して有効であって、その他の要らない要素に知らず知らず振り回されていたことに気づきました。
来る2016年も自分の中から生まれ出る形に真摯に向き合い、そして自分でもウキウキするような仕事をしていきたいと思います。

皆様におきましても 良き一年となりますように!

               

2015年10月14日水曜日

鎖を楽しむ。

数年前、宝飾の国際展示会にて、ナポリの小さな工房が出店していて、その精巧なチェーンに思わず足を止めました。

繊細なモチーフがつながる、今まで目にしたことのない、楽しく美しい鎖。
柱、紋章、小さな花などが 艶消しの濃い金で繋がるそれはそれは気の遠くなるような手仕事のジュエリー。
素材は柔らかく色味暖かな20金。
ブレスレットの他、ロング・ショートネックレスがあり、鎖そのもの、あるいは先祖から受け継がれたチャームやお祝いに贈られたチャームなどを鎖に通して、その人ならではの一品になるジュエリー。人生を表す、家族の親密さを感じる南イタリアのジュエリー。

私が今まで手に入れずに深く後悔している三大ジュエリーの一つになってしまいました。

また、親子でジュエリー作家であられる方の展示会を訪れた時に拝見した フィレンツェ鎖のネックレス。
こちらはシルバー製で 一つの輪の中に何個もの輪が組み合わされた複雑で男性的な鎖。15世紀のメディチ家の肖像画にも出てくるフィレンツェの伝統的な鎖は、
今では継承する工房も少なく、稀少な品でした。
 こちらも手に入れることが叶わず、幻の一品に。

鎖という、わき役にも主役にもなるジュエリー。
モチーフ一つ一つが繋がり、優しい音を奏でながら身体に沿う金属は
いつの間にか身体の一部になっていく・・・
私は思えば30年くらい鎖のブレスレットを身に着けています。
その年代や気分によって 銀や金、チャームが沢山ついているものなど
引出しからズラリと出してみると 懐かしく、改めて鎖の存在感にハッとしたり。
細い雨だれのような華奢なブレスレットは手首を美しく見せて、女性のくびれを強調する強烈なアイテムであることは勿論ですが、一方、使い込まれたメタルや、様々なチャームを重ねた迫力のある重ね着けも女性ならではの迫力に充ちています。
往年のヌーベルバーグの映画女優ジャンヌ・モローやファニー・アルダンのようにシンプルなニットに沢山のブレスレットを重ねて着けてバーカウンターでグラスを持つ・・という光景はなんてかっこいいのでしょうか。


ずっと鎖を作るのには憧れを持っていましたが、いざ作るとなると大変な根気が要求されるので「いつか」と思っていました。
しかしとうとう「鎖が作りたい!」という情熱が高まって、チェーンブレスレットを4種類作り上げることができました。
鎖をマンテルで留めるとき、外してシャララとトレイに乗せるとき、動きを伴うたびに心が躍ります。
パーティーの時は三本重ねて着けたり、革ブレスとも高相性です。
金種の刻印がされているプレートにはK18YGでブランドマークを押しました。
一般的なサイズ展開ですが、大きさ変更もできますので、神戸市のaliさんにてぜひお手に取ってご覧いただけたら・・と思います。




 
 
 

 
 

              
 
 

2015年7月30日木曜日

2015年8月 彫金教室のご案内

毎日 暑い日が続いています。
正直、暑いのは苦手、特にガスバーナーで溶接しているときは汗だくです。

さて、大阪/北浜 アトリエ箱庭さんで開講しております BOCCA彫金教室のご案内です。
平常どうり 一週、三週を予定しております。(8/1  8/15 )

去年は中学生のお嬢さんを連れての体験講座に参加された方もおられました。
良い夏休みの思い出になったと喜んでおられたのが嬉しかったです。
体験とはいえ、そのお嬢さん、とても難しいデザインにトライされて
素敵なイニシャル入りの指環を作られました。
仕上げまで2回必要になりますが、お時間ございましたら
親子さんでのご参加もお待ちしております。
 
*去年参加されたNさま、素敵なリングをあずかっております。
  お時間ございます時に ご参加くださいませ。

        

            

2015年5月9日土曜日

眠れぬ幼い日の夜を。 "Planet"

2015年の冬は長かったような気がする。
年明けからしばらくしてからの、明け方にもたらされる悲しく憤りを禁じ得ないニュース、それらにまつわる重苦しい空気はじわじわと足音を消しながら近づいてきた不可解な物が姿を現したような気持ちだった。

皆、いろんな立場で生きている。
神を信じる人、無神論者、ベジタリアン、仕事上の地位や責任、地域での立場、日本人として、コスモポリタンとして、母として、娘として、男として、少年として、誰かに手を差し伸べる人、差し伸べて貰う人、伝統芸を受け継ぐ人、誰も見たことのない地平に踏み出す人、台所でスープを作る人、伸びてくる髪を切ったり染めたりする人、毎朝お地蔵さんの水を替える人・・・いろんな立場の複合体が一人の人間を作っている。

私達は複雑で流動的な立場を抱えながら生きている。
立場の数だけ視点があり、幸せの価値観もそれぞれだ。
当然、思想的対立や利権争いなどが絶えることはない。

でも、忘れてはいないだろうか。このことを突き詰めると恐怖してしまいつい目をそらしてしまう「人間って何?」という問いを。
せいぜい自分の前後世代のことしか見えていない毎日を過ごすことで
私たちは 解明されていない宇宙にある地球という星に住む人間という生物の一つにしか過ぎないということを忘れてはいないだろうか?
他の生物より知性がすぐれ、感情を持ち、それを共有するシステムはどんどん進化していく事の引換えに、種の遺伝子を脅かすような環境に自ら突き進んでいき、そしてその加速を止めることが出来ない私たち。例えば20年前なら日記か新聞の投書欄に投稿するくらいの個人的な考えもこうして発信していることのプラスとマイナス。

地球はいつか消滅する。
人間も他の生物がそうであったように滅亡する。
そのことは分かってはいるけれども、できることなら、次の世代に、そしてもっと先の世代に住みやすい星を残したい。
すこしでも長く。

人の生きる時間は、極小の点のようなスパンでしかなく、その中で遺伝子はか細く受け継がれてきている。短い人生のなかで、30年かかって何かを学び、次世代に伝える仕事を全力でできるのも30年前後・・・人の一生の短さに唖然とするのを実感するのと同時に、「人間って何?」という幼い時に考えては眠れなくなった夜をもう一度思い出す必要があるのではないかと、冬の夜空を見上げながら考えた。

先日、ある個展のオープニング・パーティーに誘っていただいた。
初めて出会う人も多く、海外の方もいらした。
長いテーブルを囲んで 食事とお酒を頂きながら見る人の笑顔がとても愛おしく
二度と同じメンバーで集う事はないであろうその夜は、地球とそこに生きる私たちの短い一生に似ていると思った。

私はジュエリーという人間にしか価値が見えないであろうものを作っている。
石や銀・金も地球の大切な資源を使っているので、いつも敬虔な思いを持ちながら。

宇宙の図鑑を抱えながら眠れぬ夜をすごした幼い日に導かれるように作ったシリーズが "Planet"
星の瞬きを思いながらホワイト・トパーズをスタッズのようにセットしたり、惑星のガスの模様に似たスペクトロライトやゴールド・ルチルクオーツ、静かなグレイ・ムーンストーン、別名ウォーターサファイアとも呼ばれるアイオライトを使って小さな宇宙を広げました。ali (神戸市/元町)でお取扱いして頂いています。


2015年3月6日金曜日

BOCCA彫金教室 3月の予定のお知らせ

風は冷たいものの陽射しは眩しいこのごろ、春が近づいてきましたね。
大阪・北浜のアトリエ箱庭さんで開講しているBOCCA彫金教室も
お陰様をもちまして1年を迎えようとしています。

彫金に興味がある、自分で気に入ったジュエリーを作りたい、大切な人にプレゼントしたい・・など教室の扉を開ける人はそれぞれの思いでいらっしゃいます。
そして皆さん、素敵なアトリエ箱庭さんの川が見える部屋で緊張感のある集中した時間と和やかなお茶の時間を過ごしてくださり とても嬉しく思います。

ワックスを使った彫金から始め、生徒さんのご要望や技術の進み具合に合わせて
バーナーワークや石留めにも対応していきたいと思います。

今月はカフスボタンを制作している生徒さんが 初のバーナーワーク、また、リングサイズを縮めることにトライします。
一年前は技術的に難しい事を 楽しんで頂くためにはどのような教室が良いのか
手さぐりの中でのスタートでしたが、難しい事を超えてゆくこと、イメージしている物を形にすることを理解して楽しんでくださる姿勢に、教室を開催させて頂いて良かったな、有難いな、と思っております。

基本的に毎月、第一、第三土曜日 13時から18時までの開講ですが
三月は 第二、第三 土曜日の開講になります。

教室の見学もご自由にしていただけます。
古き良き大阪の残る北浜にお出での際はぜひお立ち寄りください。

2015年1月6日火曜日

名画座の日々

出来すぎた話というのは苦手である。
年末に5回シリーズで放映していたドラマも期待して見ていたが途中で止めたのは
架空のできごととしても 余りにも目に余る「都合のよさ」に「無理だわ~~」とついていけなくなったから。たまたま入った喫茶店で、都合よく後ろの席の人が主人公の知りたかった秘密を喋っているのを聞いたり、たまたま出向いた先で怪しい二人が会合しているのにピンポイントで出会ったり・・それは脚本の甘さなのか、上手なウソがつけない演出なのか。

構成上の拙さ以外にも 「泣くよ、これは」「感動するよ、絶対」というのも
天性の天邪鬼な性格から素直になれない部分があった。
それが、だんだん歳を重ねるにつれ 許せるようになったのは
現実の厳しさやものの憐れを少しは体感したため、素直に感動することの貴重さを知った為かもしれない。
涙もろくなったよ。
ドキュメンタリーでも泣く泣く・・・

今年初めて読んだ本は 原田マハ著「キネマの神様」
映画を巡る 家族と仲間の話。SNSで知り合った友情をも含めて今日的な人間関係も描かれていた。
「ニューシネマ・パラダイス」という映画が鍵になっている。
この映画は私が説明するまでもなく映画ファンのための映画といわれる名画なのだけれども、私にはちょっと出来すぎた感があって 一歩ひいて観ている部分があった。
同じ映画ファンのための映画というなら「カイロの紫のバラ」の方が素直に観れた。
しかし、この話を読んでいて、私は「ニューシネマ・パラダイス」をDVDで観たことに気が付いた。きっと映画館で観るべき映画なのだろうな。
この話は、映画館という場所の特異性と魅力を存分に語っている。
DVDで観た映画は多分「知っているつもり」だけかもしれない・・と思わせる説得力があった。絵画を図録で見て知っているつもりになっているのと一緒で。
この本は自宅で読了して良かった。
電車で読んでいたら 不信者レベルの泣き顔を世間にさらすところだった・・・

この本に登場するような名画座というのは、現在はどのくらいあるのだろう。
高校生の頃から通った関西の名画座はことごとく姿を消した。
二本立て、三本立てを観る贅沢な時間。
「鬼火 / 去年マリエンバードで」「ハリーの災難 / 北北西に進路をとれ!」
「恋人たち /  恋のエチュード」「シェルブールの雨傘 / ロシェフォールの恋人たち」
「第三の男 / フォロー・ミー」「道 / 甘い生活 /オーケストラ・リハーサル」・・・・
ガラスケースの中にパンフレットと一緒に菓子パンとジュースとスナック菓子が並び
現実の中でも少しだけうらぶれた感じのある名画座のロビーの匂いが懐かしい。

昔のように二本立てを上映する名画座は見当たらないけれども、
同じ監督の古い映画をシリーズで上映したり、一本だけ上映する所は
まだ残っている。
でも、どうだろう。
これから がっつり4時間、6時間映画三昧できるという背徳感と贅沢感が合わさった感情は名画座ならではのものだったと思う。
昼の眩しい太陽のもと映画館に入り フランス映画3本立てを見て、星空をパリジェンヌの気分で帰る、あの夢見心地は。
今の私には一本でも充分かも知れないけれども、映画館で映画を観よう、と思った一冊だった。
知っているつもりの映画も含めて。








2015年1月2日金曜日

2015年 新春のお慶びを申し上げます。

明けましておめでとうございます。
皆様にとって良い一年であることをお祈り申し上げるとともに
2015年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

BOCCAの願いは美しいものを作ること。
私を取り巻く狭い世界から広い世界まで、憂うことなく過ごすのは
困難ではありますが、私はコツコツと美しい扉をノックして
丹念に制作を続けます。

今年は日本の訪れたことのない土地に足を運ぼうかと思います。
長野、山口・・湧水と木立を求めて。

本を読むこと、運動をすること、音楽を聴くこと、
五感と想像力を日々リフレッシュしながら
充実した一年を送れますように。