2013年4月28日日曜日

Arthur Rubinstein

 
 
このマフィアのボスの様なお方は ピアノが好きな人ならよく知っている アルトゥール ルービンシュタイン。
90歳過ぎまで演奏活動を続けた、絵画界で言えばピカソの様な存在。
私はルビ爺ことこの巨匠の遺してくれた音源をこよなく愛しています。
 
ルビ爺はショパン弾きで有名だけれども、私は80歳過ぎてからのフランス近代や
イギリス、スペインものの演奏に心酔している。ホロビッツがこの年代では骨董品扱いされたのに対し ルビ爺にはそのような揶揄は一切ない。
息を飲むほどの新鮮さなのだから。
また、あまり多くのテイクは残されていないのだが、ルビ爺の弾く シューベルトも
思わずホロリとする詩情豊かな音色で素晴らしいし、リストの「愛の夢」もこの上なく優しい。
ルビ爺の画像は大して残されていないと思ったら YouTubeで見ることができた。
その中の一つ「Rubinstein teaches the Ballade in G Minor Part2」が面白かった。
これは90歳を過ぎた最晩年のルビ爺の姿である。
視力も衰え 演奏活動も辞めた後、公開レッスンで若きピアニストに指導している貴重な映像である。
枯れ枝のようになった手のひらから 魔術の様に掬い取られる詩。
ピアノであるけれど、そこにあるのは魔術であり詩情である。
そして 細部へのこだわり。
何回も何回も同じフレーズの微差を伝えるルビ爺。
ほんの微かな呼吸の積み重ねが音楽を作りあげてゆく。
その微々たる違いが分かるかどうかで 魔術がかけられたり或いは解かれたりするのだ。
これは創作に関わる全てに共通する秘密だと言ってよい。
 
そのレッスンを見てこの巨匠の姿勢を世界中の人が学べるのはなんて素晴らしいのだろうか。
 
私のルビ爺のアルバムの一押しはこちら。
バッハからドゥビュッシーまでが録音されている。
このアルバムを聴くと キラキラとシャンデリアの瞬く豪華客船を連想する。
 
 
:追記  先ほどのYouTubeの映像は、イスラエルに於いて行われたTV公開レッスンの未収録フィルムでした。ユダヤ人のルービンシュタインが最後に手がけた仕事として同じ民族の音楽家のために教授するといのも素晴らしいですね。


2013年4月13日土曜日

安土・桃山時代の幻想力/狩野山楽・山雪展


京都国立博物館で開催されている 「狩野山楽・山雪展」は 人間の想像力とか幻想力を感じる素晴らしい展覧会だった。(5月12日まで)

近江(滋賀県)出身の山楽は豊臣秀吉に認められ京都・狩野派に属することになった。安土・桃山時代には滋賀と京都が歴史の中心で、秀吉と信長という綺羅星のようなスターがいた夢のような土地柄である。安土・長浜・伏見には 贅を尽くした城が作られ 当然 絵師にとっても最高の職場であった。

作品に漲る画面の緊迫感、余白に意味を持たせる空間美は 1600年代の絵師の美意識が完成されそして 最高峰に立ったのではないかと思わせる素晴らしい作品群で圧巻だった。自然を主題にした作品は 写実でありながら構成は抽象的である。写実であり抽象的というのが、日本の美意識の肝心なところではないかと思う。

人物の多くは中国からの古事に基づいている。
山雪の末期の作品の豊かな想像力は、金箔のたっぷりした輝きと新緑の美しさ、棕櫚や蓮に浮かぶ酒器のリズムに白昼夢を見ている気持ちにさせられた。
また、闌れた襖に施された細い泥金の縁に囲まれて描かれている ツンと鼻腔を刺す雪の匂いがする様な雪景色、師匠・山楽が最後に山雪に手ほどきをしながら共同で製作された 見事な朝顔の巨大な襖絵。どれも 漲る才能と伝承される技術の精華といってよい作品だった。

また、京都狩野派の教科書とも言える「秘伝帳」が初めて公開されている。
こちらは人物の描き分け、樹の幹の特徴などが記されていて興味深い。

美しいだけでなく、虎や猿、水鳥にクスリと笑わせるユーモアがあるのも素晴らしい。
戦乱や疫病のはびこるこの時代に これだけの豊かな文化が花開いたのは奇跡に近い感覚である。

燃えてしまった安土城・桃山城・長浜城は一体どのような絵画が描かれていたのであろうか?それを目にすることが出来ないのは海底に沈む宝箱満載の船を思うようなものであり、つくづく残念に思う。


2013年4月5日金曜日

蝶を運ぶ蟻

                       
    一日の時間をどう配分すべきか、これをコントロールできるかどうかで仕事の質や量は確実に変わっていく筈・・・だから その手のHow to本は沢山あるし、沢山あるという事は いかに皆が苦労しているかという事ですよね。(と安心しようとしている)
 
日の出が早くなれば朝5時に起きても辛くないし 充実した一日になるのは分かっているのに なかなか起きられない私。
 
いつも感心するのは 着々と建てられるビルの工事現場の光景。
この作業員さん達は自分が今どの部分に関わっているのか本当に理解しているのかしらん?と思う。巨大なビルも 毎日の積み重ねで、しかも人の手を使って建てられていく。土木工事の凄みって 蟻が大きな揚羽蝶の死骸を運んでいくのを見る感動に似ている。
 
京都大学付属病院が新しい建物を建設中。初めて見るブルーシートの海には現代アートのような面白さがある。お近くの人は是非。