2013年3月8日金曜日

ルイ16世の愉しみ

 
    「ベルサイユのばら」を読んだのは 確か小学校5年生の時。フランス革命・断頭台という悲劇的キーワードに一番弱かった時代 コミックだけでは飽き足らずマリー・アントワネットの伝記も読み、この時代への憧れで頭を一杯にした時期があった。
個人の意識と時代の流れが一致しない不幸や 啓蒙し、啓蒙されるという構図の恐ろしさ面白さをどの程度まで分かっていたかは別として、実はずっと頭から離れられない疑問があった。
それはルイ16世が趣味の錠前作りに熱中して 政治にもマリーからも逃げていたという一文である。
 
小学生女子に錠前作りなんて 想像しろという方が無理であった。華やかな宮廷生活や国王としての役目を凌駕する趣味・鍛冶仕事・・・日本の地味なカンヌキしかイメージできず、どうしてこんな庶民的なものを作ることに熱中したのか 意味が分からなかったし、ルイ16世という男性に対する実は最大の謎であった。
 
ルイ16世の錠前は私の知る限りでは現存していないようだ。今になってわかるが、きっとそれは複雑なアラベスク模様やイニシャルや家紋の入った美しいものであったことは想像に難くない。性格的には宝石などは入れていない様な気もするが、
おそらく二重、三重に仕掛けられた複雑なしかけなどもあったのではないだろうか。
そして鍵。きっと重量感と繊細さが組み合わされた 手の中でズッシリとした重みのあるものだったと想像する。
ベルサイユ宮殿の人工的な庭の一角にある石造りの鍛冶場で 時を忘れて火と戯れ生き物のように溶けた金属を御していく愉しみ。少しづつ 完成に向かっていく最後の過程を息を殺してヤスリをかけ 鹿皮で磨き上げていく。油をさし、そっと鍵穴に鍵を差し込み回すその手ごたえ、音。その音はどんな音だったのだろうか。
至福の時間を過ごすには十二分の趣味である。
 
昨夜、仕掛けのある指輪を制作していた。
4ミリ幅のアームに蝶番をとりつけ時計のベルトの様に取り外しをする。
一削り、また一削り、精密ヤスリを滑らせ少しずつ曲がる可動域を広げていく。
23時ごろから削り始め、気が付くと3時になっていた。
金属に仕掛けを作る楽しさ、ルイ16世の夢中と重ね合わせた。

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