2013年1月17日木曜日

暖かな寂しさ、大島弓子

 
 ツイッターで、漫画家の大島弓子の話題になった。大島弓子さんはもう30年を超える仕事をされている漫画界のカリスマだけではなく、映画化されたりして、読み物としての世界観を確立されている天才作家である。
 
色々なタイプの作品があり、時代ごとの特徴はあるのだが、大島節の中期以降は勿論素晴らしいが、少女マンガのセオリーを残しつつ、革新的な視点のある中期の作品も大島弓子アーカイブとしてではなく、もっと語られて良いと思う。
「全て緑になる日まで」「F式蘭丸」「バナナブレッドのプティング」などなど、筆に脂がのった勢いのある作品揃いだ。
 
私は特に「さようなら女達」、この作品がお勧め。
漫画家を目指す高校生の女の子と、彼女をとりまく友人・家族・そして未知なる世界。
現在と垣間見える未来、過去、そして忘れてはいけないのが、大島作品の根底に流れる「彼岸」に対する感性。この独特の光度をもった死生観は大島弓子が特異な作家である証なのだと思う。
 
決して暗くも怖くもない、淡々と敷居を超えていく彼岸に対する感性は、多分今の都市生活では身近ではない、家での看取りや、村で行われていた葬儀をまだ知っている世代の作家だから表現し得たのではないだろうか。
この話では、直接的な死と過去に起こった死別の体験をベースにおきながら、未来に向かう創作活動と恋愛、許し許されること、親の愛情、青春期特有の中性的な恋愛感情・・・などが濃密に詰まっている。何度読んでも、必ず涙に濡れてしまうのだ。必死度の高い疾走感が、主人公の少女の走り去る後ろ姿に投影されるのが、漫画ならではの醍醐味。
 
このあと、「秋日子かくかたりき」「四月怪談」「金髪の草原」など、大島ワールド作品が並ぶのだがこの「さようなら女達」もぜひ読んで欲しい一冊である。


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